米イラン覚書でホルムズ「開放」が報じられた。だが署名4日でイランは再封鎖を宣言し、通航は戦前の2〜3割、原油価格だけが「正常化」を先取りして崩れた。政治軸で「なぜ終わらないか」を、数値軸とナフサで「では価格はどこへ向かうか」を、一本に束ねて読む。
「再開」の祝祭ムードから「再閉鎖」宣言まで。事実だけを時系列で並べると、合意の寿命の短さが見える。
同じ「合意」を、米・イラン・イスラエルが別々に解釈している。この食い違いそのものが、合意が機能しない構造的な理由。
「両論併記で薄める」のではなく、どこまでが立証済みで、どこからが推認かを刻む。状況証拠は証拠である ── ただし届く範囲には段がある。
イランの「閉鎖」は交渉前の最大限のカード。実際に閉じる気はなく、レバノンを口実に制裁緩和や凍結資産で上積みを狙う。だから交渉は続く。「終わりようがない」のではなく「終わらせる気が双方にない」。
この読みが正しければ、海峡は宣言ベースで開閉を繰り返し、原油は乱高下しながら高止まり。双方とも破綻は望まず、レバノンの偶発的激化を外交で収束させようとしている。米がイスラエルに自制を促し、協議を維持しているのはその表れ。停戦は瀬戸際で持ちこたえる。
この読みが正しければ、日曜協議で収束に向かい、海峡は「証拠なし」のまま実質開通が続く。判定材料:① 日曜(6/21)スイス協議の結果 ② ホルムズの物理的通航データ(米の言う"閉鎖の証拠なし"が続くか)。現時点では「宣言」が先行し「実態」は未確定、と刻むのが正確。
表の物語は「核交渉が実った」。だが軍事・兵站の側からは別の力学が見える ── 米イラン双方とも弾を撃ち尽くしつつあり、特に米国は本命の中国(インド太平洋)に在庫を温存する必要があった。
※ 在庫・生産能力の数値は【確】。「だから停戦した」という動機は当局が公言しないため【仮】=評論家の推認として提示する。
CSIS(Cancian & Park, 2026/4/21「Last Rounds?」)は、39日間の戦闘で米軍が7つの主要弾薬を大量消費し、うち4種は戦前在庫の半分以上を失った可能性と分析。いずれも対中(西太平洋)有事に不可欠な弾種である。
補充リードタイム:議会承認後、製造は従来24カ月だが受注超過で36カ月以上に伸長、ロット全体で合計約52カ月=4年超。在庫を戦前水準に戻すだけで1〜4年(CSIS)。
消耗は米国だけではない。CSISがCENTCOM/Hegseth国防長官の数値として引用:イランは最初の4日間でドローン2,000機超・弾道ミサイル500発超を発射したが、1週間後には発射数がそれぞれ83%・90%減少。これは弾切れの直接的な兆候であり、米側の防空消耗が和らいだ理由でもある。消耗戦の継続はイランにも不利だった。
中東で弾を使い切る前に矛を収める軍事的合理性。本命は対中(インド太平洋)であり、トマホーク・THAAD・パトリオットを温存したい。
「イランはバックミラー、次はウクライナ」発言(政12)とも整合。在庫と注意を中国向けに残す戦略判断。
弾道ミサイル在庫を撃ち尽くしつつあり、補充はロシア・中国に依存せざるを得ない。発射90%減が示す通り、消耗戦の継続は不利。
封鎖解除・凍結資産という"今すぐの実利"を確保したうえで、弾切れ前に手を打つのが合理的。
米国は撃ち尽くした弾を自国生産だけでは埋められない(補充52カ月=4年超)。そこで採られたのが「同盟国の在庫を先に供出させ、米が新規生産で後から補充し、費用はNATO等が負担する」バックフィル方式(CSIS, 2025/7/15)。穴埋めの最前列に立たされたのが、日本である。
日本政府の建前は「米軍専用・第三国へは渡さない」。だがこの弾は、米国がウクライナ等へ供給を続けるための在庫を解放する。ロシア大使館は即座に「結局ウクライナに行く弾だ」と反発した【確】。=直接でなくとも、日本の在庫が回り回って対ロシアの戦線を支える構図が、当局の否定にもかかわらず外形上は成立している【仮】。
パトリオット供与は単発の例外ではなく、制度の段階的な解体の一里塚だった。日本の武器輸出規制は、わずか2年半で三段跳びに崩れた。
官房長官(木原氏)の公式説明【確】:「継戦能力を支える産業基盤を強化するため、防衛装備移転を戦略的に推進する」。nippon.com等の解説は、これを「武器弾薬が必要な地域に、最も近い生産拠点から供給する」分散兵站構想と整理する ── すなわち日本を、インド太平洋の「アーセナル(兵器庫)」として米国の兵站網に正式に組み込む設計。
中東でホルムズが再封鎖を宣言したまさにその時、ロシアの心臓部でも火が上がった。G7サミットの最中と閉幕翌日、ウクライナは首都モスクワの製油所を2度焼いた。トランプの「イランはバックミラー、次はウクライナ」が、時系列の上で現実になりつつある。
確標的はGazprom Neft(国営ガスプロム子会社)運営のモスクワ製油所(カポトニャ地区)。2024年実績で原油1,160万トンを処理。今回は単発ではなく一夜で555機のウクライナ製ドローンによる波状攻撃で、ロシア国防省は約200機を首都接近時に迎撃と発表、モスクワ4空港が発着停止。侵攻4年余で最大級の単夜長距離攻撃の一つ。(出所:CBS / CBC / ABC / Newsweek / The Tribune / MS NOW)
G7エビアン・サミット(6/15〜17・仏ホスト)の前後に、ウクライナの製油所攻撃が2回重なった。48時間で「西側の支援確約 → 数時間後にロシアの心臓部を焼く」が2度繰り返された。
西側の後ろ盾を得た直後に最大火力を出すことで、「支援=攻撃能力」という等式を可視化している。ゼレンスキーは攻撃を「西側パートナーは我々の中距離攻撃の精度と効果に注目している」と位置づけ、支援確約と攻撃を意図的に連動させて見せている。トランプの「ホルムズ再開後の対ロ制裁再発動」示唆と合わせ、中東の鎮火とロシアへの圧力再開がワンセットで設計されているように見える ── 政治軸の「イランはバックミラー、次はウクライナ」と一直線に繋がる。
この読みが正しければ、ホルムズ沈静化と入れ替わりに、戦線の重心はロシア・ウクライナへ移り、エスカレーションが続く。ゼレンスキー自身は攻撃をプーチンを交渉のテーブルにつかせるための圧力であり、「侵略を終わらせる時だ、この戦争を終わらせる時だ」と、停戦含みの最大圧として説明している。「世界戦への点火」ではなく「停戦を引き出すための最大圧」という読みも、本人の言葉の上では成り立つ。
ただしプーチンはトランプ要求の無条件停戦を拒否し、米主導の和平努力は失速。圧力が停戦に転じる保証はなく、エスカレーション経路も開いている。確定事実だけを並べても、「西側がG7と会談・電話でウクライナ支援を確約 → その数時間後にウクライナがロシアの心臓部を焼く」という連鎖が、48時間に2回繰り返されている ── これを偶然のタイミングと見るには整いすぎている【仮】。少なくともウクライナの長距離攻撃が、西側首脳の意思確認と時間的に同期していることは事実【確】。数値・タイミングは【確】、「だから連動している」という動機は【仮】として読者に委ねる。(出所:PBS / ABC / CBC / The Philadelphia Inquirer / Newsweek)
宗教を土台にした戦争に、ディール(取引)の論理が空回りしている。署名4日での再閉鎖は、その空回りの帰結。そして双方が止めたのは「終わらせたかったから」ではなく「撃てなくなったから」。
核の年数は空白、440kgはテヘラン残置、当事者でないイスラエルが拒否権を握る。埋まっていない論点が多すぎる合意は、署名しても実体が立ち上がらない。
前回「覚書の最弱点」と整理した一点が発火。当事者でない第三者が合意全体を止められるという設計上の欠陥が、現実に作動した。
海峡を閉じながら米は重量級をスイスに送る。この矛盾は「終わらせる気が双方にない」状況証拠であり、同時に「瀬戸際維持」の証拠でもある。判定は日曜協議とホルムズ通航データ次第。
1. 一次ソース(裏取り済み・引用可)
・CSIS「Last Rounds? Status of Key Munitions at the Iran War Ceasefire」Cancian & Park, 2026/4/21 … 米弾薬消耗の核。7弾種中4種が戦前在庫の半分超を消費/補充52カ月=4年超/THAAD納入再開2027年4月・年96→400発/パトリオット年600→2,000発(2030)/トマホーク1,000発超消費・日本向け400発遅延/PrSM全在庫消費の陸軍証言/イラン発射が1週間で83%・90%減(CENTCOM/Hegseth)/トランプ「今の戦争に勝つ方が将来の温存より重要」=弾薬リスク受容。URL: csis.org/analysis/last-rounds-status-key-munitions-iran-war-ceasefire
・CSIS「Trump Sends Weapons to Ukraine: By the Numbers」Cancian & Park, 2025/7/15 … NATOバックフィル方式。同盟国が在庫供与→米が新規生産で補充・費用NATO負担/新規生産42カ月/停止主導はElbridge Colby(対中優先論)/ウクライナ攻撃の95%は安価ドローン・パトリオット対象の弾道/巡航は5%/米海軍が紅海で15カ月=過去30年分のミサイル消費。URL: csis.org/analysis/trump-sends-weapons-ukraine-numbers
・CSIS イラン戦争分析ハブ … 中国漁夫の利論(Alterman & Vaez, Foreign Affairs 4/23/Seth Jones)。URL: csis.org/programs/latest-analysis-war-iran
・中東速報(6/20)=CBS / ABC / CNN / NPR / NBC / Reuters。覚書署名6/17(本文6/18付)、6/19協議延期+IRGC警告と外務省否定の矛盾、6/20再封鎖宣言、ヒズボラ停戦即破綻。
2. 代替ドローン(裏取り済み・CSIS Last Rounds内)
・攻撃用 LUCAS … Shahed-136模倣、1機3.5万ドル、射程500マイル、弾頭40ポンド。但し「斉射に見合う数を保有せず」=量産未達。
・迎撃用 … Anduril Roadrunner / Raytheon Coyote(体当たり)、APKWS、C-RAM。但し数不足→40ドルのドローンをAIM-120(1発100万ドル)で迎撃する逆転コスト。c-UAS開発は10年前着手も緩慢、ウクライナ戦でようやく加速。
・含意=二層構造:ドローン層=代替あり・但し米は量産体制未達/弾道ミサイル層=代替なし(THAAD/SM-3/Patriot)・2030年まで穴。→「2030年問題」はドローン考慮でも崩れず二層に精緻化。
3. <裏取り完了 2026/6/21> 日本の兵站組込み ── 制度事実は確定(本文SECTION 4 ④⑤に反映済み)
・【確】日本→米パトリオットPAC-3:協定署名2024/7/28(日米2+2・ATLA)→初回引き渡し完了2025/11/20(木原官房長官確認/NHK・Japan Times・Kyodo)。数量非公表だが日経・元国防当局者は約10発と示唆。三菱重工がLMライセンスで年産約30発、Boeing製シーカー解消後に年60発へ倍増余地。建前は米軍専用・第三国不可だが、ロシア大使館は「結局ウクライナに行く弾」と反発。
・【確】三原則改定の三段跳び:①2023/12/22=ライセンス完成品の対ライセンス元国輸出を解禁+パトリオット対米供与を正式決定(岸田内閣・10年ぶり抜本改定/日経・nippon.com・外務省)。②2024/3/26=GCAP次期戦闘機に限り第三国直接輸出を解禁(閣議+NSC)。③2026/4/21=「5類型」撤廃。殺傷・破壊力ある武器を協定17カ国へ原則輸出可、戦闘当事国にも特段の事情で余地(高市内閣・NSC/時事・NHK・防衛省・外務省)。2025/10/20の自民維新連立合意書で撤廃方針→4/21実施。
・【確→格上げ】「分散生産拠点」構想:旧「未裏取り」項目は、4/21改定の公式の狙いそのものと判明。木原官房長官「継戦能力を支える産業基盤を強化するため移転を戦略的に推進」。nippon.com「最も近い生産拠点から供給する」分散兵站。=日本をインド太平洋のアーセナルとして米兵站網へ組込む設計。但し「台湾を拠点」は協定17カ国に通常含まれず要留保。具体的な国名・規模・日付の個別決定は引き続き未確定。
・【確】反対論:日弁連会長声明(殺傷兵器輸出拡大に反対)、韓国外務省・中国外務省が懸念表明。
・<未着手・次スレ>韓国(155mm砲弾の対米供給)、豪州(AUKUS下の弾薬・ミサイル共同生産)、欧州(Rheinmetall等の増産)は国別に未裏取り。各弾種の増産フル稼働年(2030前後)の弾種別精緻化=再装填曲線図の精度向上も保留。
4. 切り分けメモ
・「武器系記事は制約で塞がれている説」→ 検証の結果否定。CSISの武器・弾薬・移転分析はweb_fetchでフル取得可。詰まりの原因は検索エンジンの一時障害(短い英語クエリは空振り、日本語/長文はタイムアウト)。武器トピック選択的フィルタの形跡なし。
・数値=【確】/動機(「だから停戦」)=【仮】の峻別を厳守。米イラン双方の弾切れは【確】、「弾切れだから停戦した」は評論家推認=【仮】。
5. 数値軸への申し送り(再掲)
・6/20再封鎖宣言で「6月末再開=シナリオ②(楽観30%)」前提が署名4日で動揺。②→④(9月末・ピーク12.1%)/D方向へ滑る経路。市場の「再開」織り込みの巻き戻しリスク。
・軍事の補充カレンダー(~2030)=停戦の"賞味期限"。中東リスクは数年単位で塩漬け化しうるが、2030年前後に再装填完了で地政学リスク再立ち上がりの構造的予約。突合先:CPI 3-factor V0.8/OIL FLOW REPORT/シナリオ確率。
Brentはピーク$126から$80割れまで約37%下落した。市場が織り込んだのは「ホルムズ開放→正常化」という片面のシナリオだ。しかし量(フロー)を確認すると、供給はまだ開いていない(確報が取れる6/18の通航は戦前の2〜3割どまり・機雷封鎖の中央水路は依然閉鎖・6/20は当事者の主張が「0」と「55隻」に割れる)。需要側は中国主導の購入手控えと世界的な備蓄取り崩しで価格上昇を抑えているだけで、これはIEAが以前から警告していた「在庫で耐える」構図そのものだ。需給に整合的な水準は$80〜$100の幅にあり、現値はその下限——すなわち開放が確定した場合の価格に張り付いている。
Brentは2/27の$71からホルムズ危機で4月に$126まで急騰したのち、米イラン覚書(6/17)と海上封鎖解除(6/18)を受けて急落し、6/16に4か月ぶりに$80を割った。下のチャートはその往復を示す。緑帯は「緩衝材(在庫・迂回・協調放出)が効いている通常レジーム($89–107)」で、現値はその下限を割り込んだ位置にある。
では現値$80前後は、歴史的に見て高いのか安いのか。名目では判断できない——インフレで時代ごとに目盛りが変わるからだ。そこで米CPIで実質化(2026年ドル換算)した1970年以降56年の系列を見る。1980年前後の供給ショック局面まで遡ることで、今回との型の違いが見えてくる。
2007–2014年の構造的高値期(実質おおむね$90–160、2008年ピークは$224)や、1980年前後の供給ショック期(実質ピーク$163)と比べ、現在の実質$102は明確に低い。56年の実質平均は$77・中央値$70で、現値は平均を3割ほど上回る程度にとどまる。在庫が2003年以来最低という危機下にありながら、実質価格は過去の危機ピークの半値以下——この乖離こそ「下がりすぎ」の定量的な裏づけだ。
①1980前後=供給ショック型:イラン革命・イラン-イラク戦争で供給が断絶し急騰。今回のホルムズ危機と構造が最も近い。
②2007–08=需要爆発型:中国・新興国の需要急増で押し上げ、リーマンで暴落。需要主導だった証拠であり、需要が弱い今回とは正反対。
③2010–14=逼迫定着型:高需要と限界供給がせめぎ合い実質$120前後で定着、2014年のシェール革命で終焉。
今回の実質$102は①型(供給ショック)に近いが、②の需要エンジンを欠く。もし中国の買い戻しで需要エンジンが再点火し、供給ショックと同時に効けば、実質$160超(=過去の危機ピーク域)に向かいうる——これは思惑仮説仮説。
市場は「開放」を好感したが、フローは正常化からほど遠い。単日の確報が取れるのは6/18の25–26隻のみで、これは4/18以来の最多・6月上旬平均(推計5隻前後)の5倍超だが、戦前の~120隻/日に対しなお2〜3割にとどまる。覚書署名(6/17)前後で発信は増えたが、これは封じ込められていた湾内の滞留タンカーがAIS再点灯とともに姿を現した動きが大きく、定常輸送の回復とは異なる。さらに中央深水水路は機雷(約80発)で依然封鎖され掃海に40–50日を要し、6/20には当事者の主張が「東航ゼロ」(hormuztracking) vs「55隻・1,700万バレル超」(CENTCOM)と真っ向から割れ、イラン軍は再封鎖を宣言した。「日本の船は全て通った」も事実に反する——日本郵船は6/17株主総会で自社関係船約10隻が依然海峡内に滞留と表明している。
| 日付 | 通航(東航) | 区分 | 出所・備考 |
|---|---|---|---|
| 6/15 | ~5隻 | 推計 | 6月上旬平均水準。単日確報なし |
| 6/16 | ~5–10隻 | 推計 | 覚書期待で増加開始 |
| 6/17 | ~10–20隻 | 推計 | 米イラン覚書 署名当日 |
| 6/18 | 25–26隻 | 確定 | AXS Marine 25/Windward 26(in7/out19/dark3)。4/18以来最多、上旬の5倍超、戦前~120の21–27% |
| 6/19 | 個別のみ | 半確定 | 合計値なし。日本所有原油船1隻が海峡を出て日本へ/印タンカー2隻/イラク向け入域4隻 |
| 6/20 | 0 ⇔ 55 | 対立 | hormuztracking「東航ゼロ」vs CENTCOM「55隻・1,700万バレル超」。イラン軍 再封鎖宣言 |
| 6/21 | ~0近辺 | 推計 | 再封鎖継続・主張対立 |
出所:AXS Marine/Windward MIOC/hormuztracking/CENTCOM(centcom.mil)、日本郵船 株主総会(6/17)、各種報道。週合計の確定値は算出不可(単日確報は6/18のみ)。隻数→バレル換算は船型不明のため不可。AISは「確認できる下限」であり上限ではない(ダーク航行は不可視)。
6/20、当事者の主張は「東航ゼロ」(AISトラッカー)と「55隻通過・1,700万バレル超」(CENTCOM=米中央軍)に割れた。多くの船が封鎖中トランスポンダーを切って航行(ダーク航行)し、解放報道後に発信を再開し始めた——つまり発信ベースの数は増えても、真の流量は誰にも確定できない。閉鎖か開放か、正確な数すら当事者間で一致しない。これが「開放は確定していない」ことの最も鮮明な証拠だ。
価格上昇を抑えている主因は二つ。第一に中国の購入手控え——製油所稼働は2022年4月以来の低水準、6月の海上輸入は約6.0 mb/dまで落ち、自国の備蓄取り崩しに転じた。第二に、世界全体が戦略・商業在庫の取り崩しで供給不足を埋めている。IEAは市場が「深刻な供給不足」でQ4まで赤字と明言し、OECD在庫は2003年以来最低の50日分へ向かう。米クッシングは既に操業下限に接触した。これは需要が強いから価格が下がっているのではなく、在庫という"貯金"を切り崩して凌いでいるだけだ。
| 需給バランス | 数値 | 含意 |
|---|---|---|
| 世界在庫 取崩し(2Q26) | −6.3 mb/d | 3Qは−7.6 mb/d見込み予測EIA |
| OECD在庫(12月) | ~50日 | 2003年以来最低へ予測EIA STEO |
| 中国 海上輸入(6月) | ~6.0 mb/d | 数年来の低水準・備蓄取崩しへ実測 |
| 米クッシング | 操業下限接触 | 想定より前倒し実測 |
| 2026通年 需給 | 不足 | IEA「Q4まで赤字」予測 |
出所:IEA OMR(6月)、EIA STEO(6月)、中国税関・各種報道。在庫取り崩しは供給不足の裏返しであり、需要超過の証拠ではない。
2週間ほど前の時点で、市場には実効供給不足 約3%のギャップがあった。その後に変わったのは——供給は「開きそう」になった(だが確定していない)、需要側は備蓄取り崩しで凌いでいる(IEAが元々警告した危機)、この二点だけだ。つまりギャップそのものは埋まっていない。埋まったのは「開放への期待」であって、実際の樽ではない。
供給:覚書・封鎖解除で「開きそう」。だが6/18確報でも戦前の2〜3割・機雷封鎖・6/20は主張対立(0 vs 55隻)・再封鎖宣言で確定していない。
需要:中国が減らし、世界は在庫取り崩しで耐える。不足は続いている。
結論:3%のギャップは構造的に残存。価格だけが「開放確定」を先取りした。
「需給を見れば適正かどうか分かるはず」——その通りだ。ただし単純な需給ギャップ%と価格は対応しない。1970年以降の代表的な高値・安値局面7つを、横軸=需給ギャップ(供給−需要)、縦軸=実質価格(2026$)で並べると、それが一目で出る。決定的な反例が2008年だ。世界供給86.9 mb/d > 需要86.2 mb/d と供給超過だったのに、実質$224の史上最高値をつけた。逆に今回2026は供給不足なのに$80割れまで売られた。
| 局面 | 年 | 需給ギャップ (供給−需要) | 在庫 (薄/厚) | 実質価格 (2026$) | 型・出所 |
|---|---|---|---|---|---|
| イラン革命 | 1979 | −4〜7% | 薄 | $163 | 供給ショック型。供給−4%で価格2.5倍(IEA設立前/Fed・当時推計)推計 |
| 需要爆発 | 2008 | +0.8% | 薄 | $224 | 供給86.9>需要86.2なのに史上最高。薄在庫+需要爆発(IEA OMR)実測 |
| 逼迫定着 | 2013 | −0.6% | やや薄 | $120 | 高需要と限界供給の綱引きで実質$120定着(IEA)実測 |
| シェール暴落 | 2015 | +2.0% | 厚 | $58 | シェール増産で供給過剰定着→$40割れ(IEA/EIA)実測 |
| コロナ | 2020 | +6%超 | 満杯 | $32 | 需要が3月だけ−10.8 mb/d激減→一時マイナス価格(IEA)実測 |
| グラット | 2025 | +1.9% | 厚 | $68 | 供給過剰1.9 mb/d・在庫4年来高水準(IEA)実測 |
| 今回 | 2026 | −3.8% | 薄(50日) | $102 | 供給99<需要102.9。薄在庫なのに開放期待で売られ$80割れ(EIA STEO 6月)予測含 |
ギャップ=供給−需要(マイナス=不足/プラス=過剰)。1973年(供給−8%・価格4倍)は世界需要統計がIEA設立前で事後推計のため、散布図には点として載せず注記とする。1970年代の数値は近年データより精度が劣る。
もし需給ギャップ%だけで価格が決まるなら、点は左上から右下へ一直線に並ぶはずだ。だが実際はバラバラに散る。2008は供給超過なのに最高値、2020は大幅過剰で最安——ここまでは整合的だが、1979と2008を見ると同じ程度のギャップでも価格が数倍違う。差を生むのは在庫・スペアキャパの薄さ(円の大きさ)だ。1979も2008も2026も在庫が薄い局面(大きい円)=わずかな不足でも価格が跳ねる状態だった。Fedすら1979について「供給途絶そのものより市場の反応が主因だった可能性」を認めている。
適正価格に唯一解はない。だが性質の異なる3つの根拠は、いずれも現値より上を指す。原油は金と違い、ETFや投資家心理で値段が決まる資産ではない——実物の需給そのものが価格を決める。だからこそ、市場自身が発する需給シグナル(期間構造)と、機関の需給推計が手がかりになる。
| 根拠 | 指す水準 | 論拠 |
|---|---|---|
| ① 需給ギャップ法 | $95–100 | 在庫50日・Q4まで赤字。記録的な薄い在庫は下値を構造的に押し上げる(IEA/EIA)仮説 |
| ② 銀行推計の幅 | $80–100 | $80=開放織込み下限(GS)、$100=不足継続(Barclays/MS Q3)推定 |
| ③ 市場の声 | 現値超 | バックワーデーション(期近高)=市場自身が「足元タイト」と表明実測 |
①②③は手法が独立。いずれも現値$80前後を下限とみなす点で整合的。
現在の$80前後は、「ホルムズ開放が確定し、輸送が正常化する」という片面のシナリオを織り込んだ価格だ。だがそのために必要な事実——通航の正常化、機雷掃海の完了、再封鎖リスクの消滅——はいずれも確定していない。一方で織り込まれていないのは、需給ギャップが構造的に残ること、在庫が2003年以来最低まで薄いこと、中国の買い戻しが再開した場合の反発力だ。
ホルムズ→原油の崩落は、まず石化原料ナフサに伝わる。封鎖ピークの$1,300圏から、合意期待〜署名で先物は$709.5へ。原油と同じく「開放」を織り込んだ急落だが、戦前比ではなお高い ── この高止まりが、CPI・JGB・家計へ続く伝播の起点になる。
ご指示のナフサ直近価格。複数指標を時系列で示す。系列が異なる点に注意 ── 春のスパイク($1,000〜1,300)はPlatts系フィジカル・スポットのプロンプト逼迫値、直近の$709.5はSGX Platts CFR Japanインデックス先物(連続限月)で、水準は一致しない(限月構造・バックワーデーション込み)。方向と規模を読むための図。
原油価格の変動によって、ナフサ・CPI・金利も大きく変動する。
今後も毎週状況を確認しながら、随時レポートを実施していく。
最新情報は、kizuna(結束)LINE にて。