ARTICLES / 2026.09.16
逃げ回る富裕層、追いかける国税
いたちごっこの現状と今後【2026年】オフショア/海外不動産/仮想通貨(暗号資産)
【Part1】国税はどこまで把握しているのか?
西村直樹
皆さまこんにちは。西村です。
ここ最近、マネーの流れについての違和感の共有という軸ではYouTube配信をしておりませんが、この数週間で大きく流れが変わった可能性がありますね。円安トレンドが一旦停止した可能性が大きく、今後の不安材料は円キャリートレードの巻き戻しと、金利高騰です。小手先の動きの変化は激しいものの、今年4月頃に挙げていた金利高騰による世界金融システムの崩壊への道は何も変わらず、むしろその道はくっきりと見えてきたと感じる今日この頃です。
さて本日は、こうした中長期の構造的な話ではなく、過去と現在の富裕層と国税の動きという実態を見ていきたいと思います。
国税と税金への言及をしますが、しかるべき申告・納税をするべきものは、しっかりと実施するようお願い申し上げます。あくまでも実態把握のためにデータ等を一次情報にて共有しますので、予めご了承ください。
この30年、どちらが先に動いてきたか
まず、こちらをご覧ください。
図1 資産の逃げ方と、制度が網をかけた順番
出所:国税庁「国税庁レポート2026」/国税庁「国税システムの更改について」/EU Tax Observatory「Global Tax Evasion Report 2024」。上段の年は各局面が顕著になった時期の目安です。
富裕層の側の動き
- オフショア(海外)に資産を移した
- 法人を作り、節税スキームを構築した
- 海外移住
- 金地金を保有しだした
- 海外不動産への投資
- 暗号資産・海外取引所での資金分散
それに対して、国税の側の動き
- CRS(共通報告基準)日本人の海外銀行口座の情報が、外国の税務当局から自動で日本へ届くようになりました。令和6事務年度で101か国・地域から275万口座、残高17.7兆円。スイスもケイマン諸島も、いまは網の中です。
- 通称ミニマムタックス正式名称は「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」。所得の中身が配当だろうと株の譲渡益だろうと、一定の水準を超えれば最低ラインまで課税されます。令和7年分の所得から適用が始まりました。
- 相続税は「10年ルール」被相続人と相続人の両方が、10年を超えて日本に住所を有していないこと。片方でも10年以内に日本に住所があれば、国外財産まで課税されます。平成29年度改正で「5年」から「10年」に延びました。
- 所得税の居住者判定は、日数ではなく実態日本の所得税法には「年間◯日以下なら非居住者」という日数の基準がありません。判定は生活の本拠がどこにあるかの実態判断です。争われた武富士事件(最高裁平成23年2月18日判決)では、香港での滞在が対象期間の約3分の2、国内滞在の約2.5倍という事実が決め手になりました。住民票を抜いただけでは足りません。
- 支払調書と国外送金等調書金・白金の地金、金貨・白金貨を200万円を超えて売却すると、業者が税務署に支払調書を出します。また、100万円を超える国外への送金・国外からの受金は、金融機関が国外送金等調書を提出します。令和6事務年度で923万枚。所有と所得の両面から捕捉されています。
- 海外不動産は、2026年時点では捕捉しきれていない可能性が大CRSが見ているのは金融口座だけで、不動産は対象外です。あくまで「今は」の話です。
- 暗号資産は、飴と鞭が同時に来ています2026年7月に金融商品取引法・資金決済法の改正法が公布され、暗号資産の譲渡益を総合課税から申告分離課税へ移す方向が決まりました。ただし対象は国内の取引業者を通じた取引に限られ、海外取引所は総合課税のままです。施行はこれからで、時期は未確定です。一方で、海外取引所にある残高を各国が交換する枠組み(CARF)は、日本では2027年に初回の情報交換が始まります。
ご理解いただけたでしょうか
要は、この30年。当初、富裕層は海外に資産を逃がしました。人によっては海外移住した人もいました。しかしCRSによって、その意味がほぼ皆無となったのがこの10年です。
皆さんは不動産に、地金に、暗号資産に移行しました。しかし、現時点で基本的に全て網を張られている状態になっています。
「海外不動産はバレない」と思っていらっしゃる方も多いかもしれませんが、それは現時点でのことです。
- その海外不動産を、海外口座から振り込んだ履歴は残っていますよね?
- 日本から海外の口座に振り込んだ履歴は残っていますよね?
それらを国税は、今は把握できていないこともあるだけです。今後、海外口座の情報もすべてデータ化され、AIで分析され、「お尋ね」が来たら、どうされますか?
逃げれば網を張る。抜けてもまた網を張る。
資産家と国税とは、いたちごっこです。
抜けられるのは、1兆円を超すグローバル企業オーナーなどの資産家のみです。私たちプチ富裕層に、国税の網を潜り抜けられる策など基本的には無いと、私個人的には思います。
ちなみに、国税は以下のデータを把握しています
国外送金等調書923万枚100万円を超える国外への送金・国外からの受金。送金者と受金者の氏名・住所・金額を金融機関が税務署へ提出(令和6事務年度)
CRS情報(海外の金融口座)275万口座101か国・地域の税務当局から自動で届く。口座残高の合計17.7兆円(令和6事務年度)
財産債務調書8万3,427件財産10億円以上の居住者ほか。国内外を問わず全財産を記載。記載された財産の合計142.3兆円(令和6年分)
国外財産調書1万4,544件国外財産が5,000万円を超える居住者が対象。記載された財産の合計8兆1,945億円(令和6年分)
出所:国税庁「国税庁レポート2026」Ⅳ/国税庁「令和6事務年度 租税条約等に基づく情報交換事績の概要」(令和8年1月)/国税庁「令和6年分の国外財産調書の提出状況について」(令和8年1月)。
ここで一つ、気になる数字があります。外国から届いている口座残高は17.7兆円。それに対して、ご本人から申告されている国外財産の総額は8.2兆円。半分以下です。
図2 外から届く残高と、自己申告された額
出所:同上。なお、二つは定義が違います。CRSは金融口座のみが対象で、国外財産調書は国外財産が5,000万円を超える方のみが対象です。したがって差額をそのまま申告漏れと呼ぶことはできません。それでも、この開きが7年間縮んでいないことは事実です。
そして、調査が入ったときにどうなるか。国税庁が公表している令和6事務年度の実績がこちらです。
図3 所得税の実地調査 1件当たりの追徴税額(令和6事務年度)
出所:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月)。倍率は所得税の実地調査(特別・一般)全体との比較です。
海外投資等を行った富裕層への調査は、1件当たり1,595万円。全体の5.3倍です。対象となる方は、どうぞお気を付けください。
こういう方々と、12年間お話をして参りました。
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無料相談を申し込むこの記事で参照した一次資料
- 国税庁「国税庁レポート2026」Ⅰ・Ⅱ・Ⅳ
- 国税庁「令和6事務年度 租税条約等に基づく情報交換事績の概要」(令和8年1月)
- 国税庁「令和6年分の国外財産調書の提出状況について」(令和8年1月)
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月)
- 国税庁「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置について」
- 国税庁「国税システムの更改について」
- 所得税基本通達2-1(住所の意義)、最高裁平成23年2月18日判決
- EU Tax Observatory「Global Tax Evasion Report 2024」