第 1 面PRIORITY ①/今週のマネーの流れ=金
GOLD ─ 4,000ドル前後の停滞を抜けた
金が+7.45%、株も同時に上昇
これは上昇局面の始まりか、単発の波か
今週のマネーの流れを一言で表す数字は金である。4,000ドル前後で停滞していた相場が、8月5日に1日で4%超上げ、4,100・4,200・4,300ドルの節目を一気に抜いた。約5か月ぶりの大幅高で、1月から続いた下降トレンドラインを上抜けている。同じ週に株も最高値圏へ。ふだん逆に動く2つが同時に上がった理由と、これが続くのかを最初に整理する。
金 XAU/USD(週間)
+7.45%
4,042.67 → 4,343.74 ドル
銀(週間)
+9.51%
57.99 → 63.50 ドル
終値の最高値からの距離
−19.6%
5,400.25ドル(2026-01-28)
実質金(2026年5月ドル)
4,362$
物価調整後でも名目を上回る
■ 金が上がった理由 ─ 4つが同じ週に重なった
① 米金利の低下
利息を生まない金の不利が縮む
実質金利 −4bp
+
+
② ドル安
ドル建ての金は割安になる
DXY −0.37%
+
+
③ 中央銀行の買い
4〜6月期、前年比+62%(1〜3月期は57トン)
289 トン
+
+
④ 売り方の買い戻し
抵抗線の突破が引き金
1日 +4%超
①と②の引き金は、8月5日のADP雇用(+4.4万人)と8月7日の米雇用統計(−2.3万人)である。金が上がった直接の理由は「米国の雇用が弱かったこと」と言ってよい。③については後述のとおり「今年も一貫して強い」とは言えない。④は値動きそのものが呼んだ買いで、持続性はない。
金 XAU/USD
短期(2か月)|2026-06 〜 2026-08
▼ -3.2%
7月は4,000ドル前後で停滞。8月に入って一気に抜けた。
金 XAU/USD
年初来|2026-01 〜 2026-08
▼ -0.1%
1月28日の5,400.25ドルが終値の最高値。今週の上げはその戻り局面にある。
金 XAU/USD
長期(3年)|2023-08 〜 2026-08
▲ +127.0%
3年の幅では上昇トレンドの中の調整。押し目の位置は切り上がっている。
EXPLAINERいちばん知りたいこと ─ 上昇局面の始まりか、単発の波か
今の金は、坂を登りきったあと一度大きく下って、いま登り返している途中にある。問題は「これが次の坂の登り口なのか」「下り坂の途中のひと休みなのか」である。今週の数字だけでは、まだどちらとも言えない。
上昇継続の条件
①4,310ドル付近を終値で上抜けて定着 ②欧米の金ETFへの資金流入が再開。この2つが揃えば100日線の4,393ドル〜4,400ドル台が視野。
単発で終わる条件
①8/12のCPIが上振れて利上げ警戒が再燃 ②ホルムズ協議が頓挫して原油が反発し米金利が上昇。4,200ドル割れなら4,100ドル台、さらに25日線4,085ドル付近まで。
構造要因(要注意)
中央銀行買いは4〜6月期に289トン(前年比+62%)へ急回復。一方1〜3月期は244トン→57トンへ大幅下方改定された。2026年上期合計は約346トンで近年では低い水準。長期の構造要因は残るが「今年も一貫して強い」とは言えない。
当方の見立て。今週の上げは①金利低下と④買い戻しの寄与が大きく、まだ「単発の波」の側に分類するのが妥当である。理由は3つ。金ETFへの資金流入の再開がまだ確認できていないこと。終値の最高値5,400.25ドルからは−19.6%と戻りの途中にすぎないこと。そして中央銀行買いという構造要因が、Q1の大幅下方改定によって当初思われていたより弱かったことである。判断が変わる条件は「4,310ドルの上抜け定着」と「ETF流入の再開」の2つで、この2つを次週の観察点に置く。なお報道では過去最高値を5,598ドルとするものがあるが、これはザラ場ベースとみられ、当社データ(終値ベース)の5,400.25ドルとは定義が違う(未確認)。
金・銀と、同じ週に上がったもの ─ 週間騰落率
2026-07-31 → 2026-08-07 の終値ベース。右(赤)が上昇。
金
4,042.67 → 4,343.74
+7.45%
ナスダック総合
25,374 → 26,691
+5.19%
S&P500
7,490 → 7,758(終値の最高値)
+3.58%
ビットコイン
62,899 → 64,915
+3.20%
日経225
64,362 → 65,607
+1.93%
VIX 恐怖指数
15.99 → 14.90
−6.82%
安全資産(金・銀)とリスク資産(株・BTC)が同時に上がり、恐怖指数と原油が下がった。今週については、金と株に共通した最大の追い風は「米利上げ期待の後退」だった可能性が高い。ただし金には実質金利・ドル安・弱い雇用・買い戻し・中央銀行需要・地政学と複数の要因があり、株にも金利期待のほか個別決算やAI関連株の反発がある。「両方が上がった=必ず金利要因」と一般化はしない。
第 2 面PRIORITY ②/為替 ─ 15年ぶりの協調介入
FX ─ 40年ぶりの円安に、当局が実弾で介入した
日米が15年ぶりの協調介入
米国は「ドル」ではなく「ユーロ」を売った
7月23日、ドル円は163.988円と1986年11月以来およそ40年ぶりの円安をつけた。そこから8月3日には一時155.218円まで、数営業日で約9円動いている。動かしたのは通貨当局である。7月30日に日本が単独で、7月31日に日米が協調して円買いに踏み切った。そして米国が円を買う原資に使ったのは、ドルではなくユーロだった。
ドル円(7/24 → 8/7)
−3.69%
163.85 → 157.81 円
ユーロ円(7/24 → 8/7)
−2.07%
186.26 → 182.41 円
ユーロドル(7/24 → 8/7)
+1.68%
1.1368 → 1.1559
米ドル指数 DXY
−1.90%
101.47 → 99.54
何が起きたのか ─ 事実と、推測の切り分け
OFFICIAL=一次資料・当局の公式発表で確認/REPORTED=信頼できる報道/UNCONFIRMED=未確認の推計。同じ7月31日の出来事でも、情報のレイヤーが違うものは行を分けている。
| 日付 | 出来事 | ドル円の動き | 確度 |
| 7/23 | ドル円が163.988円。1986年11月以来およそ40年ぶりの円安 | 163.99 | OFFICIAL 確定(市場価格) |
| 7/30 | 日本単独の円買い・ドル売り介入(米国市場)。162円台後半から157円台後半へ約5円 | 159.54 | OFFICIAL 確定(後日公表) |
| 7/30 | 介入規模。市場推計で6〜7兆円、一部で最大8兆4,500億円との推計も | — | UNCONFIRMED 推計(規模は未公表) |
| 7/31 | 日米が協調して円買い介入を実施 | 157.58 | OFFICIAL 確定(8/3 財務大臣談話) |
| 7/31 | 米側はNY連銀を通じてユーロ売り・円買いを実施 | — | REPORTED 報道(Financial Times) |
| 7/31 | ロイターが閣議中のベッセント米財務長官の手元メモを撮影。「日本円を50億〜100億ドル購入」 | — | REPORTED 報道(裏取りなし) |
| 8/3 | 片山さつき財務相が財務大臣談話で協調介入を公表。「今後、更なる協調介入も躊躇しない」。ベッセント長官もSNSで裏付け | 157.18 | OFFICIAL 確定(公式発表) |
| 8/3 | 東京市場で一時155.218円=5月上旬以来の円高。ユーロ円は180円割れ(2026年2月中旬以来) | 155.22 | OFFICIAL 確定(市場価格) |
| 8/6 | 米当局はECBに事前通告していなかった。ECB高官は前例のない行為と受け止め | 158.44 | REPORTED 報道(Financial Times) |
回数と位置づけ。日米が実弾を伴って協調したのは、2011年3月の東日本大震災以来15年ぶり。しかも円買い方向では1998年の金融危機時以来およそ28年ぶりである。過去の日米協調(2011年)は円売り・ドル買いであり、方向が逆だった。「円を守るために日米が一緒に動く」形は、今の世代の市場参加者がほとんど経験していない。
ドル円
短期(2か月)|2026-06 〜 2026-08
▼ -1.2%
7/23の163.99円がピーク。7/30の介入で急落した。
ユーロ円
短期(2か月)|2026-06 〜 2026-08
▼ -1.8%
ドル円と同じ形。円が全面的に買い戻された。
ユーロドル
短期(2か月)|2026-06 〜 2026-08
▼ -0.6%
ユーロは対ドルで上昇。米国のユーロ売りにもかかわらず、である。
EXPLAINERなぜ米国は「ドル」ではなく「ユーロ」を売ったのか
友人(日本)の借金を助けるとき、自分の財布(ドル)から出すのではなく、預かっていた別の人のお金(ユーロ)を使った、という形である。助けた事実は同じでも、誰の財布が減ったかが違う。
[OFFICIAL]米国の通貨当局が介入するとき、通常はドルを使う。2011年の東日本大震災後の介入も、NY連銀による円売り・ドル買いだった。[REPORTED]今回、円を買う原資にユーロを充てたとFTが報じている。[INTERPRETATION/当方の解釈]これによって米国はドルを売らずに日本の円安是正に付き合ったことになり、ドル高を志向する政権にとっては「ドルを売った」形を残さずに済む建て付けになる。ただしこれは有力な解釈であって、米政府が公式に示した動機ではない。
欧州の反応
FTによればECBに事前通告なし。一部高官は「長年の協力関係を破る前例のない行為」と受け止め、「非常に衝撃的で残念だ」と表明。
市場の指摘
米大手資産運用会社が「地政学リスクを高め、長期国債の投資妙味を損ねる」と指摘。各国間の協調が弱まっている証左との見方。
当方の留保
原資の選択が意図的だったかは未確認。技術的事情の可能性もあり、断定はしない。ただし当局が原資を選べる立場にあることは事実。
実務面では、両当局は「少なくとも月次で、あらゆる為替介入の実施状況を公表する」とコミットしている。規模の一次確認は財務省「外国為替平衡操作の実施状況」(月次は8月末公表、日次内訳は四半期公表)で可能になる。それまでは規模はすべて推計である。
いちばん知りたいこと ─ 円高に向かうのか、円安が続くのか
介入は「水準」を変える力は限られるが、「速度」を止める力はある。過去の効果の持続期間から考える。
円高が続くとみる根拠
①今回は日米が実弾を伴って協調した。過去の効果は、2026年1月の日米協調レートチェックで約2か月、4〜5月の日本単独介入で1か月半程度とされ、今回はより長引く可能性がある(外為どっとコム総研・神田卓也氏の見立て)。②財務省が「更なる協調介入も躊躇しない」と明言し、警戒感が残るあいだは円売りが手控えられる。③米国の利上げ観測が後退し、日米金利差の拡大圧力そのものが弱まった。④日銀は9月以降の利上げを「しっかり議論」する姿勢。
円安に戻るとみる根拠
①円安の背景にある要因は何も解消していない。日本の財政悪化懸念と金利差は残ったまま。②7月31日の東京市場では、介入の翌日に160円台後半まで戻す場面があった=効果の持続性への疑問はすでに一度示されている(NRI・木内登英氏)。③介入は水準を変えるものではなく、速度を落とすもの。④8/12のCPIが上振れれば米金利が反発し、金利差が再び開く。
当方の整理。今週の値動きを見るかぎり、介入後のドル円は155〜158円台で膠着している(8/3 157.18 → 8/7 157.81)。円高方向に走り続けてもいないし、160円台に戻してもいない。つまり現時点では「速度は止まったが、方向は変わっていない」状態である。方向が変わったと判断するには、①日銀が9月に利上げする ②米国が利上げを完全に見送る、のどちらかが要る。次の分岐は8月12日の米CPIで、ここが上振れれば円安方向への戻りが試される。
数値の食い違いを明記する。当社データ(Investing.com 8/7終値)のドル円は157.81円だが、同日の報道ベースでは「一時156.68円・直近157.16円」とされる。取得時刻と提示元の差であり、どちらかが誤りというわけではない。本紙は自社データを主採用値、報道値を補助値として扱う。
第 3 面PRIORITY ③/株の中身 ─ AI・半導体の分裂
EQUITY ─ 指数の陰で起きていること
S&P500は最高値、しかし
「AI株」は一枚岩ではなくなった
今週、S&P500は終値の過去最高を更新した。だが「AI関連株が買われて指数が上がった」と読むと事実を取り違える。同じAI関連のなかで、演算・クラウド側は反発し、メモリー側は崩落している。7月のフィラデルフィア半導体指数は月間−20.6%だった。指数だけを見ていては、この分裂は見えない。
S&P500(週間)
+3.58%
7,757.64=終値の過去最高
サンディスク(6月下旬の高値から)
−50%超
SKハイニックスは約−45%
マイクロソフト(7/30 1日)
+16%
1日の時価総額増加は企業史上最大
SOX指数(7月・月間)
−20.6%
今週は反発したが月間では大幅安
分裂の中身 ─ 買われたものと、売られたもの
直近5営業日の騰落。出所=自社「崩壊監視REPORT」の実測値(8/7終値基準)。
AI・半導体 主要銘柄 ─ 直近5営業日の騰落率
演算・電力インフラ側は反発、メモリー側は続落という真逆の動き。
ヴァーティブ(VRT)
データセンター電力
+12.8%
ウエスタンデジタル
HDD(NANDは2025年にサンディスクへ分離)
−20.3%
同じ「AI関連」でありながら、上位4社と下位3社で30ポイント以上の差がついた。買われたのは計算する側・電気を供給する側、売られたのは記憶する側である。指数(SOXX)は今週+7.60%だが、13社を等金額で持った場合の20営業日騰落は−15.18%。指数の強さは上位数社が作っており、平均的な半導体株は下がり続けている。
EXPLAINERなぜメモリーだけが崩れているのか
AIブームで「計算する装置」と「覚えておく装置」の両方が値上がりしてきた。今起きているのは、覚えておく装置の値段が上がりすぎたので、買う側が「もう払わない」と言い始めた、ということである。
きっかけ①
アップルがDRAMの寡占による価格支配力を崩そうと動いたと報じられた。最大の買い手が値上げを拒む姿勢を見せた。
きっかけ②
日本が半導体の輸出管理政策を導入。地政学的な材料が重なった。
きっかけ③
8月3日、アジア時間にSKハイニックスとサムスンが7%超急落し、米国のメモリー株へ流動性の売り圧力が波及した。
象徴的なのは決算の受け止め方である。SKハイニックスの4〜6月期は営業利益が前年同期比557%増の過去最高だったが、市場予想には届かず、株価は6月の最高値から45%下落し、1か月余りで5,700億ドル(約93兆円)の時価総額を失った。ウエスタンデジタルも過去最高の決算(売上+44%・通期GAAP純利益+481%)を出しながら、週間で−20.3%である。
「良い決算でも売られる」のは、市場が業績ではなく価格サイクルの天井を見ているからである。メモリーは値上がりが利益の源泉なので、値上がりが止まると判断された時点で、過去の好業績は評価されなくなる。ここが今、AI相場のなかで最も弱い場所である。
反対側では何が起きたか。7月30日、マイクロソフトは決算後に1日で約16%上昇し、1日の時価総額増加額としては企業史上最大の約4,480億ドルを記録した。アマゾンも一時+16%。理由はクラウドの成長が予想を超え、AI投資の回収懸念が後退したことである。投資する側(ハイパースケーラー)は評価され、投資される側(メモリー)は売られた。これが今のAI相場の構図である。
「最高値」の正確な位置
週末の終値だけを見ると週の途中の高値を見落とす。日次の終値まで見て判定し直した。
| 指標 | 8/7終値 | 終値の最高値 | その日付 | 高値からの距離 |
| S&P500 米・大型 | 7,757.64 | 7,757.64 | 2026-08-07 | 更新 |
| ラッセル2000 米・中小型 | 3,034.49 | 3,036.98 | 2026-08-04 | −0.1% |
| NYダウ 米・大型 | 54,036.93 | 54,349.12 | 2026-08-05 | −0.6% |
| TOPIX 日本 | 4,074.93 | 4,101.96 | 2026-07-06 | −0.7% |
| ナスダック総合 米・ハイテク | 26,690.62 | 27,093.90 | 2026-06-02 | −1.5% |
| 日経225 日本 | 65,606.71 | 72,366.34 | 2026-06-25 | −9.3% |
| 金 貴金属 | 4,343.74 | 5,400.25 | 2026-01-28 | −19.6% |
| 銀 貴金属 | 63.499 | 115.148 | 2026-01-26 | −44.9% |
日本株の内訳。8月7日、日経平均は−76.55円と小幅安だったのにTOPIXは+19.08ポイントで4日続伸した。日経平均を押し下げた主因は、アドバンテスト・東京エレクトロン・レーザーテック・ソフトバンクGなどの値がさ株である。一方、東証プライム全体では値上がり939銘柄・値下がり582銘柄と騰落は値上がり優勢だった。米国と同じ分裂が、日本でも起きている。日経の終値最高値は6月25日の72,366.34で、そこからは−9.3%である。
第 4 面PRIORITY ④/物価と金利 ─ 米国と日本
INFLATION ─ 逆方向を向いている
米国は減速、日本は川上で加速
来週のCPIが、今週の相場を採点する
物価は今週の相場の土台にある。6月のインフレ鈍化が利上げ警戒を和らげる土台を作り、今週は弱い雇用統計が追加利上げ観測をさらに後退させた。その結果、米金利が低下し、金と株の双方に追い風となった。一方、日本は輸入・企業段階でむしろ加速している。そして来週8月12日、米国の7月CPIが発表される。今週の相場が正しかったかは、ここで一度採点される。
米 総合CPI(6月)
3.464%
5月4.167%から−0.70pt
米 コアPCE(6月)
3.287%
目標2%の1.6倍。警戒解除ではない
日本 輸入物価(6月)
+29.68%
円ベース・前年比
日本 消費者物価 総合(6月)
+1.6%
2025年基準。コアも+1.6%
米インフレ指標 ─ 前月からの変化(ポイント)
2026年5月分 → 6月分。左(青)が減速。7月分は8/12(CPI)・8/13(PPI)に公表。
総合CPI
4.167 → 3.464
−0.70pt
コアCPI
2.823 → 2.566
−0.26pt
総合PCE
4.079 → 3.668
−0.41pt
コアPCE
3.422 → 3.287
−0.14pt
全商品PPI
12.298 → 10.11
−2.19pt
平均時給(7月)
3.410 → 3.153
−0.26pt
4指標そろって減速したが、コアPCEは依然3.29%で目標2%の1.6倍。FRBがインフレ警戒を解除できる水準ではない。なお当社の「全商品PPI」はFREDのPPIACOで、BLSがヘッドラインとして公表する最終需要PPI(6月+5.5%)とは別系列である。
日本の物価 ─ 段階別 前年比(%)
2026年6月分。日本銀行「企業物価指数」6月速報(7/10公表)と、総務省が8/7に公表した2025年基準の遡及系列。
消費者物価 コアコア
生鮮・エネルギー除く
+1.70%
消費者物価は2025年基準で再取得した。総務省が8/7に公表した遡及系列では、6月の総合が1.7%→1.6%(−0.1pt)、コアは1.6%で変わらず、コアコアも1.7%で変わらず。2026年1〜3月はコアが2.0→1.9、1.6→1.5、1.8→1.7と下方改定されている。正式な2025年基準の公表は8月21日の7月分から。
国内企業物価の+7.1%は2023年3月以来3年3か月ぶりの高さ。非鉄金属+39.2%、石油・石炭製品+22.8%、化学製品+14.4%の寄与が大きい。ただし28ポイントの差をそのまま「未転嫁分」とは読めない。輸入物価は水際価格で為替が直接入り、対象品目もウェイトも価格段階もCPIとは違う。加えてガソリン・電気・ガスへの政府補助金が消費者段階を抑えている。
為替と物価はつながっている。輸入物価が前年比+29.7%まで上がった主因のひとつは円安である。したがって今週の円高(第2面)が続けば、輸入物価の上昇圧力は和らぐ。ただし店頭の価格に反映されるまでには数か月かかる。介入の効果を物価で確認できるのは、早くても秋以降である。
FedWatch ─ 物価と雇用のあいだで揺れた2週間
金利先物から逆算した「FRBが動く確率」。株価や為替より先に、市場の予想そのものが動く。
9月FOMC(9月15〜16日)の利上げ確率 ─ 2週間の推移
CMEグループ FedWatch。取得時点を明記する(分単位で変動するため)。
7月29日 声明後
据え置き決定。3名が据え置きに反対し25bp利上げを主張
57.0%
8月7日 発表後
NFP −2.3万人を受けて
44.0%
2週間で70.8%→44.0%(−26.8pt)。「利上げが本線」から「据え置きがやや優勢」へ逆転した。7/29の声明後にいったん57%へ落ち、7/30に65.2%へ戻し、雇用統計で一気に崩れた。補助値(Barron’s報道のCME値)は42.3%で、主採用の44%とは定義・取得時刻の差がある。
12月までの利上げ回数別 確率
CMEグループ FedWatch(Barron’s 2026/8/7報道の確認値)。年内に何回動くかの分布。
年内で最も確率が高いのは「1回利上げ」(45.3%)。据え置き(0回)は25.0%まで戻ったが少数派である。今週の相場は「利上げが消えた」ことを買ったのではなく、「9月に来る確率が半分以下になった」ことを買ったにすぎない。
EXPLAINER三者の立ち位置 ─ 市場・FRB・次の焦点
市場(FedWatch)
9月は44.0%。年内は1回利上げ45.3%が中心。据え置き復権だが利上げ消滅ではない。
FRB(Warsh体制)
7月FOMCは9対3で3.50〜3.75%に据え置き。反対した3名は「据え置きに反対し、25bpの利上げを主張」した側。インフレ警戒は残る。
次の焦点
8月12日のCPI。市場予想は総合+3.4%・コア+2.5%。上振れすれば9月利上げ確率は再上昇する。
整理すると、雇用が弱ったので利上げしにくくなったが、物価が下がりきったわけではないということである。FRBは「雇用を守るために利上げをやめる」と「物価を抑えるために利上げする」の間に挟まれている。
データの取り扱いについて(本紙の運用)。FedWatchは分単位で変動するため、本来は会合日・取得日・取得時刻(ET)・対象レンジ・確率を組にして保存すべきである。今回掲載した各時点のうち、時刻まで特定できたのは8月7日の「雇用統計発表前」(ロンドン昼=概ね07:00 ET前後)と「発表後」の2点のみで、他は日付単位である。次号から取得時刻をこちらで記録し、すべての行に付す。
METHOD「13社を等金額で持った場合 −15.18%」の計算方法
第3面で使った「指数の強さは上位数社が作っている」という主張を、第三者が再現できるようにするための注記である。
対象13社
NVIDIA/Broadcom/AMD/Micron/Western Digital/SanDisk/TSMC/ARM/Vertiv/ソフトバンクG(9984)/キオクシア(285A)/サムスン電子(KRX:005930)/SKハイニックス(KRX:000660)
選定基準
AI・半導体のバリューチェーン(演算・メモリー・製造・IP・データセンター電力)を代表し、かつ日次終値を継続取得できる銘柄。時価総額による選別はしていない。
計算式
各社の20営業日騰落率を求め、その単純平均(=期初に等金額で買い持ちした場合のポートフォリオ騰落率と一致)。終点=2026-08-07終値、始点=その20営業日前の終値。
扱わないもの
配当は含まない(価格リターンのみ)。為替換算もしていない(各社の現地通貨建て終値で計算。円建て・ウォン建て銘柄は為替変動を含まない)。
データ出所
GOOGLEFINANCE(米国株)/Yahoo!ファイナンス手動DL(9984・285A、調整後終値)/自社スプレッドシート「段階①_price_data」。
比較対象
SMHの同期間騰落は−4.64%。差の10.5ポイントが「上位集中」の大きさである。指数側は時価総額加重で、算出主体も異なる。
米国債・実質金利 ─ 週間変化(bp)
2026-07-31 → 2026-08-06 の終値ベース。米金利はFREDの公表が1営業日遅れる。
HY社債スプレッド
2.85 → 2.71
−14.0bp
前週末の7/31は10年4.75%・30年5.27%とこの1年で最も高い水準だった。そこから下げている。7日の雇用統計を受けた低下は本データに含まれていない(報道ベースで10年4.6474%、2年4.1973%)。英国債の下げが大きいのは、7/30の英中銀が6対3で据え置き、ベイリー総裁が追加引き締めに慎重な姿勢を示したため。
日本国債 ─ 年限別 週間変化(bp)
2026-07-30 → 2026-08-06。7/31は財務省ファイルを取得していないため前週末は7/30。
2年と40年で符号が逆=短期は日銀の利上げを、超長期は原油安と海外金利低下を見ている。2s40sは235bpまで縮んだ。日銀は7月会合で1.00%に据え置いたうえで、植田総裁が9月以降の利上げを「しっかり議論」すると述べている。この因果の切り分けは当方の解釈で、一次資料による確認はしていない。
■ 来週以降の注目カレンダー
8/12(水)
米 7月 消費者物価指数(CPI) 市場予想 総合+3.4%/コア+2.5%(日本時間21:30)
最重要
8/13(木)
米 7月 生産者物価指数(PPI)/ 日銀 7月 企業物価指数
重要
8/14(金)
日本 8月限 SQ(先物・オプション清算)
需給
8/26(水)
米 7月 PCE物価指数 FRBが最も重視。9月FOMC前の最終確認
重要
8月下旬
総務省 7月 消費者物価指数(全国)/ 財務省 為替介入の実施状況(月次)=介入規模の一次確認
確認
9/15-16
FOMC(9月利上げ確率 44.0%/年内1回45.3%)
分岐点
今週の相場は「9月の利上げが半分以下になった」ことを買った。それが正しかったかは、8月12日のCPIで一度採点される。上振れれば、金・株・為替のすべてが今週と逆方向に動きうる。
次週の観察点 ─ この4つを見る
先週の4項目と入れ替える。答え合わせは次号で行う。
① 金
4,310ドルを終値で上抜けて定着するか。あわせて欧米の金ETFへの資金流入が再開するか。両方揃えば「上昇局面入り」に判定を変える。
② 為替
ドル円が155円を割るか、160円に戻すか。膠着(155〜158円)が続くなら「速度は止まったが方向は変わっていない」の判定を維持する。
③ 物価
8/12のCPIが予想(総合+3.4%/コア+2.5%)を上振れるか。上振れればFedWatchは同じ幅で戻り、今週の値動きの多くが巻き戻る。
④ AI・半導体
DRAM/NAND勢(SKハイニックス・サムスン・マイクロン・サンディスク)とHDDのWDCの下落が止まるか。止まらなければ、指数の最高値と中身の乖離はさらに広がる。